東京高等裁判所 平成元年(行ケ)204号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号ないし第五号証によれば、本願明細書には、本願第一発明の技術的課題(目的)、構成、及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
本願第一発明は、デイジタル誤り修整方法、特にバースト誤りに適用されるデイジタル誤り修整方法に関する(補正明細書第二頁第七行ないし第九行、昭和六一年八月二八日付手続補正書第二頁第九行、第一〇行)。
従来デイジタルデータを磁気テープに記録する場合の関心事は記録波形の直流成分を最小限にすることであり、この点に関して、例えばイギリスのインデペンデント協会が開発した群符号(IBA符号)があり、簡単な例として、
デイジタル化ワード 記録ワード
000 000111
001 111000
010 101010
011 010101
100 001011
101 110100
110 001110
111 110001
という直流分のない六ビツトの群があるが、低周波応答特性があまりよくないことに加えて磁気記録及び再生に伴うもう一つの問題があり、それは誤りの発生である。誤りは、通常ドロツプアウトの結果としてバーストで生じる。前述の六ビツトの記録ワードの場合、六四個の六ビツト符号ワードの中の八個だけが有効な符号ワードであり、統計的に起り得るすべての誤りの中の<省略>が無効の符号ワード中で生じ、検出されるが、このままでは残りの<省略>の誤りが依然として検出されない。同様に一〇ビツトのIBA符号の場合、起り得るすべての誤りの中約<省略>が検出され、残りの<省略>の誤りが検出されない欠点がある(補正明細書第二頁第一一行ないし第六頁第七行)。
本願第一発明は、検出される誤りだけでなく、データチヤンネル中のすべての誤りをほとんど修整することを目的とし(補正明細書第六頁第八行ないし第一〇行、昭和六一年八月二八日付手続補正書第二頁第一一行、第一二行)、本願第一発明の要旨(特許請求の範囲第一項)記載の構成(昭和六二年二月二七日付手続補正書第三枚目第二行ないし第一八行)を採用し、その結果検出されない誤りをほとんど修整する(昭和六一年八月二八日付手続補正書第三頁第六行、第七行)という作用効果を奏するものである。
2 原告は、審決は、引用例記載の技術内容を誤認した結果、本願第一発明と引用例記載の発明とは「誤りのある符号ワードを検出する段階と、検出された誤りのある符号ワードについて置換用符号ワードを発生させる段階と、前記検出された誤りのある符号ワードを前記発生させた置換用符号ワードで置換する段階」との構成において一致すると誤つて判断した旨主張するので、まずこの点について検討する。
成立に争いのない甲第六号証によれば、引用例記載の発明は、オーデイオ信号をデイジタル信号に変換して記録再生するPCM信号処理、特に複数個のデータを一組とする各ビツト毎のモジユロ二演算により第一チエツク符号を生成し、前記データ・第一チエツク符号を記録信号の時間軸上でそれぞれ離れた位置に配置し、それら一定量のデータ・第一チエツク符号で一ブロツクを構成し、各ブロツクを構成するデータが正しく再生されたかどうかをチエツクする第二チエツク符号を付加して記録媒体に記録・再生するPCM信号処理装置に関する(第二頁左上欄第一行ないし第一三行)もので、誤り検出の原理として、第1図(別紙図面二参照)のように、第二チエツク符号(CRC符号)でブロツク単位の誤りを検出した場合は、該ブロツクに含まれるすべてのデータをそれぞれ関係する第一チエツク符号で訂正する構成は誤りのデータの検出能力という点で大きな不安が残る(同頁左上欄第一四行ないし第三頁右上欄第六行)との知見に基づき、右検出能力を飛躍的に向上させることを目的として(同頁右上欄第一六行ないし第一八行)、特許請求の範囲第一項記載の構成、すなわち、前記PCM信号処理装置において、記録媒体から読み出されたデータ及び第一チエツク符号を蓄えるメモリ手段と、第一チエツク符号を用いて再生データの誤りを検出する第一の誤り検出手段と、第二チエツク符号を用いて再生データの誤りを検出する第二の誤り検出手段と、第一及び第二の誤り検出手段の少なくとも一方で再生データに誤りが検出された場合は訂正もしくは補間データに切換える手段とを具備する構成(第一頁左下欄第五行ないし右下欄第二行)を採用したものであることが認められる。
しかしながら、前掲甲第六号証に基づいて引用例記載の技術内容を検討しても、引用例記載の発明において、ブロツクを構成する各データは、それ自体誤り検出符号で構成されていないことは勿論のこと、第一及び第二チエツク符号によつても個々の誤りを検出できる構成になつていない。
すなわち、前掲甲第六号証によれば、引用例記載の発明において、<1>第一チエツク符号(P符号、例えば別紙図面二第2図のP4n)は、複数個のデータ(例えば第2図のデータDn1・D2n2・D3n3)を一組として、モジユロ2演算により生成し(<省略> jは各データのj番目のビツトを表し、これは一から最大ビツト数までを示す。<省略>は排他的論理和演算である。)(第二頁右上欄第六行ないし第一五行)、この一組のデータを構成するデータ(Dn1・D2n2・D3n3)及び第一チエツク符号(P4n)は、第2図に示すように時間軸上でそれぞれ離れた位置に配置される。一方データは一定数まとめられ、一ブロツクとされるが、各ブロツクは別紙図面二第3図に示すように一定数のデータ(例えばDn1・Dn2・Dn3)と第一チエツク符号(例えばPn)と、それらが記録・再生中に誤りを受けたか否かをチエツクする第二チエツク符号(CRC符号、例えばCRCn)とで構成される(同頁左下欄第一三行ないし右下欄第五行)。<2>そして、この第一チエツク符号(P符号)及び第二チエツク符号(CRC符号)を用いて再生データの誤り検出を行い、第一チエツク符号(P符号)のみから再生データの誤りを検出した場合は、別紙図面二第5図に示すように第一チエツク符号を生成した一組のデータ(例えばDn1・D2n2・D3n3)のどこのデータが誤つているか全く不明であるから、その場合は一組のデータ(例えばDn1・D2n2・D3n3)のすべてのデータを補間データに切換えて出力する(第四頁左下欄第八行ないし第一四行)か、又は別紙図面二第6図に示すように第一チエツク符号を生成した一組のデータ(Dn1・D2n2・D3n3)が配置されている各ブロツク(例えばBn・B2n・B3n・B4n)の全データもまた補間データに切換えて出力し(同頁左下欄第一八行ないし右下欄第一行)、<3>第二チエツク符号(CRC符号)により再生データの誤りが検出された場合は、第二チエツク符号が含まれるブロツクのすべてのデータ(例えばDn1・Dn2・Dn3・Pn)が誤りであることを指定し、これらすべてのデータ(Dn1・Dn2・Dn3・Pn)について、第一チエツク符号を用いて正しいデータを復元し(例えば<省略>)、誤りデータを訂正データに切換えて出力する(同頁左上欄第五行ないし右上欄第三行)ものであることが認められる。
引用例の前記<1>ないし<3>の記載事項によれば、第一チエツク符号(P符号)により一組のデータに誤りがあることは検出できてもどのデータに誤りがあるか特定検出できず、また第二チエツク符号によりブロツク中のデータのいずれかに誤りがあることは検出できてもどのデータに誤りがあるのか特定検出できないから、引用例記載の発明は、データの誤り検出と修整を一定数のデータ単位に行うものであり、各データの誤りを検出することはできないことが明らかである。
したがつて、引用例記載の発明は、「誤りのある符号ワードを検出する段階と、検出された誤りのある符号ワードについて置換用符号ワードを発生させる段階と、前記検出された誤りのある符号ワードを前記発生させた置換用符号ワードで置換する段階」を構成に欠くことができない事項とする発明であるとした審決の認定は誤りである。
そして、引用例記載の発明は、前記のように一定数のデータ単位、ブロツク単位中に誤りが検出されると、誤りのある位置とは無関係に一定数のデータ単位又はデータブロツク内のすべてのデータが置換される結果、誤りのあるデータが一定数のデータ単位又はブロツク単位中の始端・終端に存在するときは誤りのあるデータを囲んで置換できないのに対して、本願第一発明は、前記認定の構成により常に検出された符号ワード付近に重点をおいて誤り修整を行うことができるという引用例記載の発明からは予測できない顕著な作用効果を奏するものである。
この点に関し、被告は、引用例記載の発明においても置換すべきデータDは確定しているのであり、どこまで置換すべきか曖昧であるというわけではないから、置換すべきデータDの両側に亙つて所定数のデータを囲む時間区間を設定することができ、両者の相違点は単なる設計的事項である旨主張するが、本願第一発明と引用例記載の発明とは前記認定の構成の違いからその作用効果を異にするものであるから、引用例記載の発明におけるデータDを本願第一発明の符号ワードに対応させるのは誤りであり、被告の右主張は理由がない。
3 以上のとおりであるから、審決は引用例記載の技術内容を誤認した結果、本願第一発明と引用例記載の発明とは「誤りのある符号ワードを検出する段階と、検出された誤りのある符号ワードについて置換用符号ワードを発生させる段階と、前記検出された誤りのある符号ワードを前記発生させた置換用符号ワードで置換する段階」との構成において一致するとした審決の認定は誤りであり、審決は右認定を誤つた結果、本願第一発明は引用例記載の発明に基づいて容易に発明することができたとしたものであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、違法として取り消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
1 各符号ワードが誤り検出符号から成る一連の符号ワード中の誤りを修整するデイジタル誤り修整方法であつて、
誤りのある符号ワードを検出する段階と、
誤りのある符号ワードの検出に応答し、検出された誤りのある符号ワードの両側に亘つて所定数の符号ワード期間を囲む時間区間を設定する段階と、
検出された誤りのある符号ワード及び該符号ワードに対して設定された前記時間区間内にある少なくとも幾つかの符号ワードの両方について置換用符号ワードを発生させる段階と、
前記検出された誤りのある符号ワード及び前記時間区間内にある少なくとも幾つかの符号ワードの両方を、前記発生させた置換用符号ワードでそれぞれ置換する段階とを含む前記デイジタル誤り修整方法。(以下「本願第一発明」という。)
2 各符号ワードが誤り検出符号から成る一連の符号ワード中の誤りを修整するデイジタル誤り修整装置であつて、
誤りのある符号ワードを検出する手段と、
誤りのある符号ワードの検出に応答し、検出された誤りのある符号ワードの両側に亘つて所定数の符号ワード期間を囲む時間区間を設定する手段と、
検出された誤りのある符号ワード及び該符号ワードに対して設定された前記時間区間内にある少なくとも幾つかの符号ワードの両方について置換用符号ワードを発生させる手段と、
前記検出された誤りのある符号ワード及び前記時間区間内にある少なくとも幾つかの符号ワードの両方を、前記発生させた置換用符号ワードでそれぞれ置換する手段とを含む前記デイジタル誤り修整装置(別紙図面一参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面一
<省略>
<省略>
別紙図面二
<省略>
<省略>
(以下省略)